2026.07.31
人材教育
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退職者による情報漏えいが発生した企業は、情報を持ち出された被害者である一方、管理体制の不備を問われ、顧客や取引先に不利益をもたらした加害者として責任を負うことになります。情報漏えいを防ぐには、退職者が情報を持ち出す動機や経路を把握し、対策を講じることが大切です。
本記事では、退職者による情報漏えい事例や企業が負うリスク、退職者が情報を持ち出す動機や経路を解説します。情報漏えいを防ぐ方法と従業員への教育方法も紹介するので、リスクを抑えたい管理職や研修担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
退職者による情報漏えい事例
退職者による情報漏えい事例には、以下のようなものがあります。
・クラウドストレージを経由した個人情報の持ち出し
・USBメモリを用いた個人情報の持ち出し
・紙媒体への印刷による個人情報の持ち出し
・私用メールへの転送による営業秘密の持ち出し
・私用ハードディスクへの複製による営業秘密の持ち出し
それぞれ詳しく見ていきましょう。
クラウドストレージを経由した個人情報の持ち出し
クラウドストレージのアクセス制限やログ監視をしていない環境では、退職後の不正なダウンロードを許してしまうリスクがあります。
| 大手小売企業の元従業員が、在職中に約1万人分の顧客の個人情報をクラウド上へアップロードし、退職後に私物のパソコンへダウンロードした。 |
元従業員がアクセスできる状態を放置していると、情報漏えいにつながる場合があります。クラウドからの情報持ち出しを防ぐには、退職者のアクセス権限を速やかに削除するだけでなく、ファイル共有状況を可視化するシステムを導入し、不審な共有を早期検知できる体制を整えることが大切です。
USBメモリを用いた個人情報の持ち出し
私物デバイスの使用制限ルールが確立されていないことで起きた事例です。
| 出版関連企業の元従業員が、最終出勤日に業務用アカウントを利用してクラウド上の多数の業務ファイルをダウンロードし、私物のUSBメモリにコピーして社外へ持ち出した。 |
私物デバイスの利用制限を徹底していなかったり、退職予定者のクラウドへのアクセス権限を制限していなかったりすると、重要データを持ち出されるリスクがあります。持ち出しを防ぐには、USBメモリ等の外部記録媒体へのファイルコピーをシステム上で禁止するツールを導入するのが効果的です。
紙媒体への印刷による個人情報の持ち出し
情報漏えいはデジタルデータだけでなく、紙媒体からも発生するリスクがあります。
| 保険会社の元従業員が退職する際に、業務の引継ぎに使用した顧客管理リストを印刷して持ち出し、転職先での営業活動に使用していた。 |
企業は、デジタルデータのセキュリティ対策だけでなく、印刷による情報持ち出しに対しても対策を講じる必要があります。機密データの印刷権限を最小限に制限し、印刷者を追跡できるログ監視・定期監査を実施しましょう。
私用メールへの転送による営業秘密の持ち出し
社外へのメール送信に対するフィルタリングや監視体制の不足が原因となった事例です。
| 情報通信企業の元従業員が、自身の転職活動を有利に進める目的で、商談方針やサービス紹介資料等の社外秘データを私用のメールアドレスに転送して持ち出した。 |
企業が社外へのメール送信に対する監視体制を整えていなければ、機密情報を簡単に転送されるリスクがあります。メール転送による流出を防ぐには、外部宛ての不審なファイル送信を検知してブロックするメールフィルタリングシステムの導入が効果的です。
私用ハードディスクへの複製による営業秘密の持ち出し
私用デバイスの接続禁止といったルールを設けていても、システムによる物理的なブロック設定が不十分であったり、退職直前まで機密情報へのアクセス権限を残したりしていると、データを持ち出されるリスクがあります。
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製造業企業の元従業員が、転職直前にアクセス権限が付与されていた機器の設計データを私用ハードディスクに複製して持ち出した。 元従業員が所属していた企業では、秘密情報へのアクセス権を特定の従業員に絞り、私用ハードディスクの接続を禁止していたほか、退職時には秘密保持契約も結んでいた。 |
秘密情報の複製を防ぐには、退職予定者のアクセス権限を早期に制限し、外部記録媒体へのコピーをシステム上で物理的に遮断することが重要です。
退職者による情報漏えいが企業にもたらす「3大リスク」
退職者による情報漏えいが企業にもたらすリスクには、以下のようなものがあります。
・法的責任・巨額の損害賠償
・社会的信用の失墜と「ブランドイメージ」の崩壊
・市場競争力の低下(事業の優位性の喪失)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
法的責任・巨額の損害賠償
退職者による情報漏えいが発生すると、個人情報保護法に基づき、情報を持ち出した元従業員だけでなく、情報管理を怠った企業にも罰金刑が科されるリスクがあります。被害を受けた顧客や取引先から損害賠償を請求される可能性もあります。
企業が自主的に行うお詫びの費用が高額になることも少なくありません。実際に、個人情報漏えいの被害者全員への金券配布を含めたお詫び費用の総額が、約200億円に達した企業も存在します。
社会的信用の失墜と「ブランドイメージ」の崩壊
情報漏えいの事実は、メディアやSNSを通じて拡散され、企業の情報管理体制が広く問われることになります。退職者等個人による不正行為であっても、企業の管理・監督上の問題として受け止められ、ブランドへの信頼が損なわれるおそれがあります。
その結果、既存顧客の離脱や新規契約の減少、取引先からの取引停止につながる可能性があるといえます。
市場競争力の低下(事業の優位性の喪失)
退職者が自社のノウハウや顧客情報、技術データを競合他社に流出させると、市場競争力が低下する可能性があります。例えば、情報流出の結果として多大な開発費を投じた製品や独自のサービス設計を競合企業に模倣された結果、シェアを奪われるケースが挙げられます。
また、顧客との取引履歴や価格設定の資料が流出すれば、事業の優位性を失って競合企業に先手を打たれたり、既存顧客を奪われたりするおそれがあります。
退職者が情報を持ち出す「動機」と「根本的な原因」
退職者が情報を持ち出す動機や原因には、以下のようなものがあります。
・転職先での評価向上のため
・自身の成果物への所有意識があるため
・従業員の情報セキュリティ知識・リテラシーの不足
それぞれ詳しく解説します。
転職先での評価向上のため
転職先で「即戦力として評価されたい」「有利な立場でスタートしたい」という心理は、情報持ち出しを引き起こす動機となります。機密情報を手土産とする漏えいは、退職予定者のアクセス権限の管理不足や、情報の持ち出しが違法行為になり得るという意識の欠如等から引き起こされます。
情報の持ち出しを防ぐには、退職間際のアクセス権限を慎重に管理するだけでなく、情報の持ち出しは違法行為または懲戒・損害賠償の対象になり得ることを周知し、組織全体の意識改革を図ることが大切です。
自身の成果物への所有意識があるため
悪意のある情報持ち出しだけでなく「自身が作成したデータは自身のもの」という誤った認識による情報漏えいもあります。業務で作成したデータや成果物は、法令や社内規定で取り扱いについて制限が定められた情報が含まれ得るため、従業員が自由に扱えるものではなく、無断持ち出しや私物デバイスへの保存は認められていません。
しかし、ルールを十分に理解していない従業員がこれらを行い、結果的に情報漏えいにつながってしまうケースがあります。企業は、業務データや成果物の持ち出し・保存に関するルールを明確にし、研修で周知することが大切です。
従業員の情報セキュリティ知識・リテラシーの不足
従業員の情報セキュリティ知識・リテラシーの不足は、無自覚な情報漏えいを引き起こす要因となります。自社のどの情報が企業秘密に該当するのか、就業規則でどのような行為が禁止されているのかを把握していない従業員は少なくありません。
悪意の有無にかかわらず、一度でも情報漏えいが発生すれば企業の社会的信頼が失墜するおそれがあります。そのような状況を防ぐには、機密情報の範囲や遵守すべき法律・社内ルールを全従業員に周知するための教育が必要です。
なぜ退職者の漏えいは防ぎにくいのか?
退職者による情報漏えいを防ぐのが難しいのは、退職予定者が業務上必要な情報への正当なアクセス権を持っているためです。
正当なアクセス権を付与されている退職予定者は、ファイアウォール等の一般的な外部侵入対策フィルターで不正アクセスとして遮断する対象にはなりにくいと考えられます。
加えて、退職間際まで通常業務を行っている場合もあり、データにアクセスしている理由が業務上正当なものなのか、持ち出し目的なのかを判別することが難しい場合があります。そのため、情報の持ち出しが行われても発覚が遅れやすく、退職から数か月経過して持ち出しが発覚するケースもあります。
退職者による情報漏えいを防ぐ「5つの基本対策」
退職者による情報漏えいを防ぐ方法には、以下のようなものがあります。
・【システム・運用】アクセス権限の最小化と早期剥奪
・【デバイス】記録媒体(USB等)の使用禁止と制御
・【抑止力】ログ取得の明示と防犯カメラの設置
・【法的リスクの周知】秘密保持契約(NDA)の徹底締結
・【根本対策】従業員への「情報漏えいリスク」教育
それぞれ詳しく解説します。
【システム・運用】アクセス権限の最小化と早期剥奪
情報漏えいを防ぐには、退職予定者の引継ぎの進捗に合わせて重要フォルダへのアクセス権を段階的に縮小し、最終出勤日を待たずに権限をなくすことが重要です。例えば、引継ぎ開始時に編集権限をなくして「閲覧のみ」に変更し、機密性の高いフォルダから順次アクセス不可にしていきます。
早期にアクセス権限を制限すれば、退職直前に機密情報をダウンロードされるリスクを軽減でき、情報資産を保護できるでしょう。
【デバイス】記録媒体(USB等)の使用禁止と制御
私物のUSBメモリや外付けハードディスク等の記録媒体は、手軽に多くのデータを持ち出せるため注意が必要です。デバイスの利用制限やログ監視を徹底していなければ、従業員が機密情報をコピーして持ち出す可能性があります。
データ複製を防ぐには、社内パソコンへの私物デバイスの接続をシステムで一括禁止し、コピーできないようにするのが効果的です。データのコピーが業務上必要な場合は、会社が支給する暗号化機能付きデバイスのみを許可し、事前申請と上長による承認を必須とする体制を構築しましょう。
【抑止力】ログ取得の明示と防犯カメラの設置
情報漏えいを防ぐには、ログ監視の明示や防犯カメラの設置によって「見られている」という意識を従業員にもたせることが重要です。監視体制を構築していなければ、スマートフォンのカメラでパソコン画面を撮影されたり、印刷した重要書類を持ち出されたりする可能性があります。
不正を防ぐためには、従業員のパソコン操作履歴を常時記録していることを社内に明示するとともに、オフィス内に防犯カメラを設置するのが効果的です。従業員に監視の目を意識させられれば、出来心による情報持ち出しの抑止効果が期待できるでしょう。
【法的リスクの周知】秘密保持契約(NDA)の徹底締結
退職者による情報漏えいを防ぐためには、入社時だけでなく退職時にも秘密保持契約を締結することが大切です。秘密保持契約とは、機密情報を第三者に漏えいしないことを約束するための契約です。
契約書内で秘密情報の範囲や退職後の契約有効期間、違反時の損害賠償や差し止め請求について明確に取り決めておけば、漏えい発覚時に法的措置を講じることができます。加えて、秘密保持契約を交わすことが、安易な情報持ち出しを防ぐ心理的ブレーキとなるでしょう。
【根本対策】従業員への「情報漏えいリスク」教育
ここまで挙げた対策はいずれも情報漏えいの防止に有効ですが、万全ではありません。根本的な対策として、全従業員に情報漏えいのリスクを教育し、一人ひとりの意識を高めることが大切です。
「これくらい大丈夫だろう」「バレないはず」という無知や油断が、安易なデータ持ち出しを引き起こす原因となります。
機密情報を持ち出すと、持ち出した本人にも損害賠償請求や逮捕、転職先からの懲戒解雇といったペナルティが科されることを伝えるのが重要です。
従業員が退職する際のセキュリティチェックリスト
従業員が退職する際は、情報漏えいを防ぐために以下のポイントをチェックしましょう。
| チェック | 確認ポイント |
| □ | 退職者の業務用アカウントを削除したか |
| □ | 退職者のアクセス権限をなくしたか |
| □ | 支給品(パソコン・スマートフォン・USBメモリ・社章等)を回収したか |
| □ | 退職者のデータダウンロード履歴や、外部送信ログに不審な点はないか |
| □ | 退職者と秘密保持契約を締結したか |
退職者が情報漏えいを防ぐ組織風土をつくる方法
退職者が情報漏えいを防ぐ組織風土をつくるには、eラーニングを用いた教育や内部通報窓口の整備が効果的です。
ここでは、企業の担当者向けに情報漏えいを引き起こさない組織風土をつくる方法を解説します。
eラーニングによる情報セキュリティ教育を定期的に実施する
情報漏えいを防ぐ組織風土をつくるには、全従業員への継続的な教育が必要です。eラーニングを活用すれば、時間や場所を問わず、全従業員に効率よくセキュリティリスクや守るべき法律を教育できます。
研修を単発で終わらせず定期的に実施すれば、高いセキュリティ意識を定着させることができるでしょう。
内部通報窓口の整備と周知をする
内部通報窓口を整備し、問題行為に声を上げやすい環境をつくることで、不正を容認しない風土づくりにつなげられます。退職予定者による機密情報のダウンロードや印刷等、通常業務と異なる情報の取り扱いに気付いた際に、発見した従業員が安心して報告できる内部通報窓口を設置し、利用方法を周知しましょう。
内部通報窓口の設置は、不正の早期発見につながるほか、情報持ち出しへのけん制効果も期待できます。
まとめ
退職者による情報漏えいを防ぐには、システムによるアクセス制限や監視体制の構築だけでなく、全従業員に対する継続的な情報セキュリティ教育が必要です。情報管理の正しい知識や社内ルールに違反した場合のリスクを共有し、従業員一人ひとりに適切な情報管理を促すことで、システム面と従業員の行動の両面から情報漏えい対策を進められます。
しかし、集合研修の実施は、担当者の業務負荷が高くなりがちです。研修担当者の工数を抑えながら、全従業員に効率良く研修を実施するには、eラーニングの活用が効果的です。
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