2026.09.04
人材教育
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「同業者との会合で、将来の値上げ方針を共有した」「取引上の強い立場を背景に、取引先へ一方的な値下げを求めた」。日常的な業務の延長に見える行動でも、状況によっては独占禁止法違反につながることがあります。
独占禁止法違反は、大がかりな談合事件だけの話ではありません。違反行為の類型によっては、排除措置命令や多額の課徴金を受け、その内容や社名が公表される場合があります。さらに、悪質・重大なケースでは、違反行為に関与した担当者が刑事責任を問われることもあります。
本記事では、独占禁止法の基本から、現場で起こりやすい違反事例、違反した場合の影響、企業が実践すべき防止策と従業員教育のポイントまでを解説します。
独占禁止法とは?企業が守るべき競争のルール
まずは、独占禁止法がどのような法律で、何を禁止しているのかを確認しましょう。
独占禁止法の目的
独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。事業者間で公正かつ自由な競争が行われる環境を守ることを目的としています。
事業者が価格や品質等を工夫しながら競い合うことで、消費者はより安くて質の高い商品やサービスを選べるようになります。独占禁止法は、こうした競争を妨げる行為を規制する法律であり、その運用・執行は公正取引委員会が担っています。
企業が知っておきたい3つの禁止行為
独占禁止法が規制する行為のうち、企業が特に押さえておきたい主な禁止行為は、次の3つです。
| 禁止行為 | 概要 |
| 私的独占 | 他の事業者の事業活動を排除・支配し、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為 |
| 不当な取引制限 | 本来は各社が独自に決めるべき価格や生産数量等を、同業者同士が連絡を取り合って共同で決める行為。カルテルや入札談合等が該当する |
| 不公正な取引方法 | 公正な競争を阻害する恐れのある行為。優越的地位の濫用や不当廉売等が該当する |
特に現場で問題になりやすいのは「不当な取引制限」「不公正な取引方法」です。規制の対象はすべての事業者であり、業界団体等も含まれます。
どのような行動が違反につながる?現場で注意したいケース
独占禁止法違反は、経営層が悪意をもって指示した場合に限って起こるものではありません。「これくらいなら問題ない」「取引先のためにもなる」といった判断が、意図せず違反につながる場合もあります。
特に注意が必要なのが、競合他社との接触や取引先との価格交渉を行う場面です。また、比較的小規模な発注先との取引については、独占禁止法を補完する「取適法」にも注意を要します。ここからは、現場で起こり得るケースをもとに、企業が注意すべきポイントを解説します。
競合他社との情報交換がカルテルと疑われるケース
業界団体の懇親会で、同業A社の部長が「当社は4月から価格を5%引き上げる予定です」と発言し、B社も「当社も値上げを検討しています」と応じたとします。
その場にいた自社の営業部長は何も発言しませんでしたが、数か月後、各社が同じような時期に、同程度の値上げを実施しました。
カルテルは、契約書や協定書を取り交わした場合に限って成立するものではありません。裁判例では、互いに拘束し合うことを明示して合意する必要はなく、相手の行動を認識して暗黙のうちに認め合っていれば足りるとされています(東京高裁平成7年9月25日判決等)。
会合に出席していただけで、直ちにカルテルの合意に参加したと認定されるわけではありません。ただし、会合でのやり取りやその後の価格設定等の事情を総合的に考慮して、合意に参加したと判断される可能性があります。
そのため、同業他社と接する際は、現在または将来の価格や生産・販売数量、具体的な取引先等、競争上重要な個別情報を交換しないことが重要です。こうした話題が出た場合に取るべき行動も、あらかじめ社内で定めておきましょう。
・その場で、情報交換には参加しない意思を明確に示す
・話題が続く場合は退席する
・上司や法務・コンプライアンス部門へ速やかに報告する
・会合の日時、場所、参加者、発言内容、自身の対応を記録に残す
「同席していた」ことを「合意していた」と評価されないためには、反対や退席の事実が後から確認できることが重要です。口頭の報告で終わらせず、記録を残すようにしましょう。
取引上の立場を利用して不利益を押しつける
販促キャンペーンを前に、購買担当者が10年来の部品メーカーへ「協賛金として少しご協力いただけませんか」と依頼したとします。相手は難色を示しましたが、取引を続けたいので応じます。さらに展示会の設営で人手が足りず、その会社の従業員に休日出勤で手伝ってもらいました。
担当者は「強制ではなくお願いした」つもりでも、これは「優越的地位の濫用」にあたる恐れがあります。取引上の立場が強い企業が、その立場を利用して正常な商慣習に照らし不当に相手方へ不利益を与える行為だからです。
優越的地位の濫用には、次に挙げる行為が該当します。
・取引とは関係のない商品やサービスを購入させる(購入・利用強制)
・協賛金や協力金といった名目で金銭を負担させる、作業のために従業員を派遣させる等、経済上の利益を提供させる
・納入された商品の受領を拒む(受領拒否)
・受領した商品を返品する
・取引の対価の支払いを遅らせる、減額する
・相手方に不利益となるように取引の条件を設定もしくは変更し、または取引を実施する
取引先から商品を「安く買うこと」自体が違法というわけではありません。問題になるのは、相手が取引の継続を考えると断りにくい状況を利用し、一方的に不利益を押しつけることです。
特に、取引上の強い立場を利用して価格を一方的に決定した場合は、優越的地位の濫用に当たる可能性が高いと考えられます。例えば、取引先が具体的な引上げ額を示して値上げを求めたのに、これを拒否・無視したり、理由の説明や根拠資料の提供をしたりすることなく一方的に価格を据え置いた場合は、独占禁止法違反が強く疑われます。
購買・調達部門等に対しては、「同じことを立場が対等な相手にも言えるか」という視点を持つように周知しましょう。仮に言えないのであれば、それは取引上の立場の強さを利用していると考えられるため、優越的地位の濫用に当たる恐れがあります。
発注先との取引では「取適法」にも注意する
他社に対して業務を発注する企業には、独占禁止法に加えて「取適法(中小受託取引適正化法)」への対応も求められます。
取適法は、比較的小規模の受注者を保護するため、発注者が遵守すべきルールを定めた法律です。独占禁止法を補完する法律に当たります。2026年1月1日より、従来の「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」を改正する形で施行されました。下請法から取適法への変更に伴い、適用される取引の範囲が拡大されたことに注意が必要です。
例えば、自社の資本金が1,000万円で、従業員が350人だとします。部品の製造を小さな工場に委託し、支払いは長年の慣行で手形で行っていました。
1か月前に原材料の高騰を理由に単価の相談を受けましたが、返事をしないまま従来の単価で発注書を出したとします。この場合、独占禁止法上の優越的地位の濫用に加えて、取適法違反にも該当する可能性があります。
従来の下請法は、発注者の資本金の額が1,000万円以下であれば適用されませんでした。しかし現行の取適法では、適用の有無の判定基準として新たに「従業員数基準」が追加されました。発注者側が常時使用する従業員の数が、製造委託等については300人超、役務提供委託等については100人超いれば、資本金の額が1,000万円以下でも取適法が適用されることがあります。
取適法ではさまざまなルールが定められているところ、上記の行為は2026年1月から新設された次のルールに抵触する恐れがあります。
・協議に応じない一方的な代金決定の禁止
取引先から価格協議の求めがあったのに、協議に応じない、必要な説明をしないまま一方的に価格を決める行為が禁止されました。
・手形払い等の禁止
支払手段としての手形払いが一律禁止され、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段も併せて禁止されました。
他社に対して業務を発注する企業は、最新の取適法のルールを踏まえたうえで、そのルールに沿った運用へ改める必要があります。
企業が独占禁止法に違反した場合のペナルティ
独占禁止法に違反した場合、行政処分や刑事罰、損害賠償等のペナルティを受ける可能性があります。ここでは、企業が把握しておきたい主なリスクを解説します。
違反行為の中止や課徴金を命じられる
公正取引委員会は、独占禁止法に違反した事業者に対し、違反行為の中止や再発防止を命じることがあります(=排除措置命令)。排除措置命令を受けた事業者は、速やかに命じられた措置を講じなければなりません。
また、独占禁止法違反の行為によって得た売上等のうち、一定割合に相当する額の納付を命じられることもあります(=課徴金納付命令)。利益ではなく売上等の額を基準として、違反期間に応じた額の課徴金がまとめて課されるため、経営への影響は軽視できません。
なお、自ら関与したカルテル・入札談合を公正取引委員会に自主的に報告すると課徴金が減免される「課徴金減免制度(リーニエンシー)」という制度が設けられています。減免率は、報告をした順位と協力度合いによって決まります。自社が独占禁止法違反に関与したことが発覚したら、課徴金減免制度について速やかに検討を行いましょう。
なお、課徴金については以下の記事も参考にしてください。
企業だけでなく担当者が刑事責任を問われることもある
独占禁止法違反は、行政処分だけで終わるとは限りません。私的独占や不当な取引制限を行った者には、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科されます(第89条)。併せて法人にも5億円以下の罰金が科される「両罰規定」が置かれています(第95条)。
現場のマネージャーが伝えるべきことは、罰せられるのが会社だけではないという点です。上司の指示に従っただけでも、仮に稟議を通していても、個人の責任は消えません。「会社のためによかれと思ってやった」という動機も、処罰を免れる理由にはならないのです。
損害賠償や社名公表で信用を失う恐れがある
違反によって損害を受けた取引先や消費者から、損害賠償を請求される恐れもあります。企業側は、故意や過失がなかったことを理由に責任を免れることはできません(無過失責任。第25条)。
金銭的な負担に加え、社名公表による信用低下も無視できません。
公正取引委員会は排除措置命令等をウェブサイトで公表しています。公表により、取引先から取引を打ち切られる、顧客が減少する、入札参加資格を停止されるといった事態が生じる恐れがあります。
独占禁止法違反を防ぐために企業が取り組むこと
独占禁止法違反は、担当者に悪意がなくても「法律を知らなかった」「知ってはいたが自分の業務と結びついていなかった」といった認識不足から生じることもあります。
認識不足による独占禁止法違反を防ぐための対策を、3つの観点から整理します。
現場で判断できる社内ルールをつくる
「独占禁止法を守りましょう」という方針だけでは現場は変わりません。必要なのは、その場で「どう判断し」、「どう動くか」まで示した具体的なルールです。
例えば、競合他社との接触については、会う予定を事前に法務部門へ共有する、価格・数量・取引先・原価の話題に触れない、会合後に発言内容を報告する、といった具体的なルールを定めます。価格交渉なら、値上げの相談は期限を決めて書面で回答する、協議内容と決定理由を記録に残す、減額や協賛金の要請は上長承認を必須にする、といったルールを定めるとよいでしょう。
上記は一例ですが、現場で使えるルールを整備することを意識してください。
迷ったときに相談・報告できる体制を整える
ルールを整えても、現場担当者だけでは判断できない場面は出てきます。そこで重要なのが、迷った段階で相談できるという体制です。
・法務・コンプライアンス部門に相談窓口を設ける
・内部通報制度を整備する
・相談や通報をした従業員が不利益を受けない運用を徹底する
・判断に迷った段階で相談してよいことを繰り返し周知する
・違反の疑いがある場合の報告手順をあらかじめ決めておく
「違反が確定してから報告する」という発想は危険です。例えば、「懇親会で価格の話が出たかもしれない」という段階で相談できる文化を育てることが、会社を守ることにつながります。
全従業員への社内教育を継続する
独占禁止法違反を防ぐためのルールや体制を整備しても、従業員に知らされていなければ機能しません。各従業員が社内のルールや体制を理解したうえで、「自分の部署にも当てはまる」と感じられるようにすることが重要です。そのためには、従業員向けの研修を行うことが効果を発揮します。
知識を定着させるには、一度きりではなく、定期的に学び直す機会を設けることが重要です。年1~2回程度の定期研修に加え、異動時や昇格時等、業務が変わる節目にも学び直す機会を設けましょう。
従業員研修の対象は、法務部門や管理職だけに限定せず、現場業務を担当する従業員にも受講させましょう。全従業員が定期的に知識を身に付けられる仕組みが、独占禁止法の予防につながります。
継続的な従業員教育にはeラーニングが有効
全従業員向けの研修を続けることは簡単なことではありません。集合研修では日程調整、会場や講師の確保、受講状況の確認に手間がかかり、拠点が分かれていればなおさらです。
そこで有効なのがeラーニングです。従業員は時間や場所を問わず自分の業務に合わせて受講でき、一斉配信や受講状況の管理、未受講者へのフォローもしやすくなります。
取適法への移行のような法改正があった際も、教材を差し替えて素早く配信できます。異動時や年1回の全社配信といった繰り返し学習も設計しやすく、知識が定着します。全従業員への独占禁止法・コンプライアンス教育を継続する手段として適しています。
まとめ
「懇親会で黙って聞いていた」「業界の懇親会で価格情報を共有した」「長年の慣行で手形払いを続けていた」
本記事で解説した場面は、どれも悪意から始まったものではありません。だからこそ、社内ルールと相談体制を整えたうえで、全従業員が「自分の業務のどこにリスクがあるか」をイメージできる教育が欠かせないでしょう。
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監修者情報
阿部 由羅(弁護士)

ゆら総合法律事務所 代表弁護士
プロフィール
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続等を得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。埼玉弁護士会所属。登録番号54491。各種Webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。
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